中野ジェームズ修一さん直伝!KENCOワンポイント講座

20分以上ウォーキングしないと脂肪は燃焼しないのか?

20分以上ウォーキングしないと脂肪は燃焼しないのか?
20分以上ウォーキングしないと脂肪は燃焼しないのか?
中野ジェームズ修一さん
中野ジェームズ修一さん
みなさん、こんにちは。フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一です。
「脂肪が燃焼するのは運動開始20分後から」という考え方がありますが、現在では運動を始めてすぐに脂肪燃焼が始まるというのが通説になっています。
その理由と仕組みについてご説明していきましょう。
第5回のテーマは、「20分以上ウォーキングしないと脂肪は燃焼しないのか?」です。

1.なぜ「20分運動しないと脂肪燃焼が始まらない」と言われるようになったか?

運動を始めて最初の20分間、私たちの身体は血液中の糖を主なエネルギー源として消費します。その後、体脂肪へとエネルギー源を切り替えるため、「20分運動しなければ脂肪は燃焼しない」という考えが定着したようです。

しかし現在は、この考え方が正しくないことが分かってきました。
この表をご覧ください。

脂肪燃焼が始まる時間

①は、運動開始20分後から脂肪燃焼が始まるという考え方をグラフにしたものです。
最初の20分間は糖質だけが消費され、20分後からカチッと入れ替わって体脂肪が消費されることを表しています。
ただ、このようにはっきりと切り替わることはないので、現在この考え方を提唱する人はあまりいません。

②はその後に登場した説で、運動を始めると最初は糖質の方が多めに消費されて少しずつ入れ替わり、時間が経つと体脂肪の消費が増えるというもの。

しかし、会社に行ったり掃除をしたりと、運動を始める前にも人は活動しています。
つまり20分間の糖質の消費は生活しているだけですでに実行されており、動いたら動いた分だけ体脂肪もしっかり燃えているという考え方(③)が今は定着しているのです。

運動開始からすぐに体脂肪の燃焼が始まるとなれば、スキマ時間でも少し時間が空けば運動をした方が良いですよね。
難しいことは考えずに、ステップ運動でもスクワットでも、まずは身体を動かすことから始めましょう。

2.脂肪燃焼は運動後にも続いている!

みなさん、「EPOC」という言葉を聞いたことはありますか?
Excess Postexercise Oxygen Consumptionの略で、日本語では「運動後過剰酸素消費量」と表されます。

運動をすると体内では筋肉が損傷し、乳酸が作り出されます。
運動後、身体は元の状態に戻そうとリカバリー状態になって、その過程で多くの酸素を使って筋肉を修復したり、脂肪などのエネルギーを燃焼・消費したりして体の中は大忙しになります。

運動中はもちろんカロリーを消費していますが、実は運動後も消費が続いています。
つまり辛い運動を続けなくても、放っておくだけで勝手にカロリーや脂肪を消費してくれる状態になる訳です。

その継続時間は運動強度によって差があり、当然強度が高いほど脂肪燃焼時間は長くなります。
例えば最大酸素摂取量の55%程度の強度の運動をすると約2時間、70%程度の運動なら運動後約4時間もの間、脂肪などのエネルギーを勝手に消費していることが分かっています。

ちなみに運動後も立ったままでいた方が、座ったり寝たりするよりも消費カロリーが高いので、効果的なんですよ!

3.運動の時間や強度に関係なく、身体は必ず”EPOC”状態に

ここで気になるのは、どのように運動をしたら高いEPOCになり、脂肪燃焼をしやすくなるのかということでしょう。

ダイエットはウォーキング中ではなくウォーキング後にも行われている!

例えばウォーキングを30分行った場合、大きなEPOCが一度訪れます。
そのウォーキングを10分ずつ分けて行ったとしても、小さなEPOCが3回あるので、トータルで同じ程度のエネルギー消費量になります。

つまり一定の時間にまとまった運動ができなくても、朝の通勤時に10分歩いて昼食時に少し遠出して10分歩き、夜の帰宅時にも10分歩けば、30分ウォーキングしたのと同じカロリーが消費されます。
長時間やらなければ意味がない、とは思わずに、短時間でもチャンスがあれば運動をしてみてください。

ただし同じ強度の運動であれば、トータルの運動時間が少なければEPOCはその分小さくなります。
つまりウォーキングが20分しかできなかった場合、中程度のEPOCになるのです。

また運動の強度が高くなれば、EPOCの継続時間も長くなります。
特にランニングや筋トレ、テニスやバスケットなどの無酸素運動の後は、不足した酸素を補おうとより高いEPOCが長時間続きます。
睡眠時間に入ったとしても同じように消費するので、より強度の高い運動を取り入れて、運動後のエネルギー消費に拍車をかけてみましょう。

4.糖を貯蔵する「筋肉タンク」を大きく育てるには運動習慣が鍵!

最後に、第3回の「食前・食後 ウォーキングをするならどっち?」にも登場した糖を貯蔵してくれる「糖貯蔵(筋グリコーゲン)タンク」と運動習慣についてもお話ししましょう。

血液中の糖を引き取って、筋肉を動かすエネルギーである「筋グリコーゲン」に変えて蓄えてくれるこのタンク。
運動をせずにタンクに筋グリコーゲンがいつも余っている状態になると、どうなるのでしょうか。

身体は「この人は筋グリコーゲンを作っても、使わない人だ」と認識して、タンクのサイズは据え置き、引き受けてくれる糖の量が増えません。
つまり「つい飲み過ぎ」「うっかり食べ過ぎ」という場合でも、血液中に増えてしまった糖を消費してもらえず、体脂肪へと蓄積されていくのです。

反対に日常的に運動をして筋グリコーゲンを枯渇させる状態が続くと、身体は「この人は常にエネルギーが不足しているから、タンクをもっと大きくして貯蔵量を増やさなければ」と、タンクを大きくしようとします。

すると血液中の糖を消費する量が増えて体脂肪に回される糖が減るので、太らない身体になるうえ、血液中の糖も減って糖尿病予防にもなります。

筋グリコーゲンタンク

人の身体はどんな状況下にあっても、その環境に適応するようにコントロールされています。

運動の最後に階段運動をしたり、50mだけ坂道ダッシュをしたり、いつもの運動に少し負荷を加えたりするだけで、タンクを大きくする働きが強まるのでおすすめです。
最後のひと頑張りが、健康で若々しい身体作りへの近道になります。

中野ジェームズ修一さん
筆者紹介
中野ジェームズ修一(なかのじぇーむずしゅういち)
PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー
米国スポーツ医学会認定運動生理学士

数多くのトップアスリートやチームのトレーナーを歴任。

2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化も担当。

ランニングなどのパフォーマンスアップや健康維持増進のための講演、執筆など多方面で活躍。

近年は超高齢化社会における健康寿命延伸のための啓蒙活動にも注力している。