中野ジェームズ修一さん直伝!KENCOワンポイント講座

なぜ「1日8,000歩」が健康に良いのか?

みなさん、こんにちは。フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一です。
筋トレやダイエットのブームはさまざま訪れますが、「健康に暮らしたい」という思いはいつの時代も共通です。
インターネットやSNSに多様な情報があふれるなか、正しく、そして信頼に値する情報はあるのか、自分にベストな方法は何か、一緒に考えていきましょう。
第1回のテーマは、なぜ「1日8,000歩」が健康に良いのか?です。

1.「1日8,000歩」という数値について

厚生労働省からは、1日8,000歩相当の運動が推奨されています(2023年6月現在)。
ただ実際は、個人の運動歴や体力、身長、体重によって、また目的によっても、この歩数や運動の強度は変わります。
指標がなければ運動のやる気や継続のモチベーションに影響するため、万人に共通する最大公約数として「8,000歩」という数字を考えると良いでしょう。

ここでは、健康な生活を手に入れるために「増えてしまった体重を適正に戻す」「余計な体脂肪を燃焼する」という観点から話をしていきます。

2.1日8,000歩で体に何が起こるのか

成人でごく普通に生活している人の日の消費カロリーを2,000kcalとして、食事で毎日2,000kcal摂取し、体重の横ばい状態が続いていると仮定します。

10分間で歩ける歩数を約1,000歩とすると、8,000歩を歩くには1時間20分程度必要です。
1時間20分のウォーキングで消費するカロリーは約250kcal(※身長160cm、体重56.3kg、歩幅72cm程度と仮定)。週4日で1,000kcal消費可能と考えられるので、7週間で約1kg体重が落ちる計算になります。

極端な糖質制限などで短期間に急激に体重を落としてしまうダイエットには、筋肉量の減少によるリバウンドなど、デメリットが多くあります。ウォーキングで2〜3ヶ月かけて1kg落とすのは、非常に理想的なペースです。

また4〜5年間同じ体重であれば、それがその人のセットポイントになり、体重が増減すると体はそのセットポイントの体重に戻そうとします。
1日8,000歩のウォーキングを取り入れて、ゆっくり2〜3ヶ月かけてセットポイント体重を1kgずつ減らしていくのが、適切なペースということになります。

3.さらに効率良く体脂肪を燃焼するには?

ゆっくりと体重を減らせて負荷が少ないウォーキングではありますが、1時間20分という所要時間を短縮したい人もいるでしょう。

脂肪燃焼を目的としたトレーニングは、最大心拍数の60〜80%の強度で行うと最も効率が良いとされ、これは「ターゲットハートレート」と呼ばれます。

ウォーキングの間に軽くジョギングを取り入れ、苦しくなったら歩くなど、ウォーキングとジョギングを組み合わせた場合は、男性なら約40分、女性なら約45分で8,000歩のウォーキングよりカロリーを消費できる計算です。

ターゲットハートレートは主観的、つまり個人の感覚で「ややきつい〜きつい」と感じる運動ですが、この「主観」を実際の心拍数と合致させるのは至難の技。
今は心拍数を簡単に測れるウェアラブルデバイスなどが充実しているので、効率の良い脂肪燃焼のために、上手に活用していただきたいです。

4.おすすめは自宅でできる「ステップ運動」

短時間で効率良くできる有酸素運動でおすすめなのが、踏み台(ステップ)を使った運動です。
テレビを見ながら踏み台昇降のように25〜30cm程度の高さのステップを上り下りするだけで、男性は340kcal、女性は310kcal消費可能で、1時間20分のウォーキングの3分の1の時間でほぼ同等の脂肪が燃焼できることになります。

もちろん外を歩く爽快感や気分転換も大切なので、ウォーキングやジョギングなど外での運動と組み合わせるのが運動を長続きさせるコツです。

5.楽しく運動して、さらに効率アップ!

実は「楽しい」と思いながら運動をする方が、嫌々体を動かすよりも脂肪が燃焼しやすくなる、ということをご存知ですか?
笑ったり、幸福感を感じたりすると分泌されるエンドルフィンは、気分の高揚や鎮痛効果があると言われます。

ある実験で運動中に生理食塩水とエンドルフィン拮抗剤を投与したところ、拮抗剤を投与された人はエンドルフィンの値が減少し、同時に脂肪燃焼率が半分になったというデータがあります。

つまり運動に前向きに取り組むことは、脂肪燃焼をさらに後押ししてくれるということ。友だちと一緒に運動をしたり、景色が美しい場所で運動してみたりと、楽しさや快適さを感じるための環境づくりをしてみましょう。

作り笑顔をしてでも「楽しさ」「達成感」を感じて、さらに効率良く脂肪を燃焼させるのが賢い方法だと思います。

6.中野流「運動を長続きさせるコツ」とは?

運動を長続きさせるコツは、「サボる日を決めること」です。
「毎日やらなければいけない」と決め込んでしまうと、実行できなかったときの失敗体験が蓄積し、やる気がどんどん削がれていきます。

1日運動したら翌日は休み、など最初に休む日を決めて、その日は運動をしないようにする。自分で決めた休みの日ですから、これは「失敗」ではありません。「自分にはできる」という見込み感や自己効力感が得られ、成功体験を重ねられることは、運動を習慣化するために不可欠なプロセスです。

三日坊主、二日坊主から始めて、達成できそうなら徐々に日数を増やしていけば問題ありません。継続できそうな頻度で始めることが大切です。
三日坊主でも3ヶ月続ければ、1ヶ月間毎日運動したのと同じ。頭で考え過ぎず、自分で自分を追い込まないように、まずは体を動かし始めてみましょう。

筆者紹介
中野ジェームズ修一(なかのじぇーむずしゅういち)
PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー
米国スポーツ医学会認定運動生理学士

数多くのトップアスリートやチームのトレーナーを歴任。

2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化も担当。

ランニングなどのパフォーマンスアップや健康維持増進のための講演、執筆など多方面で活躍。

近年は超高齢化社会における健康寿命延伸のための啓蒙活動にも注力している。