知って得する!産業医科大Dr.による健康経営コラム

第7回「がんによる長期休業リスクは下げられる?」

コラム7回目は「がんによる長期休業リスクは下げられる?」です。
代えがきかない経営者ご自身や重要な従業員の方が、突然入院する、まとまった期間入院するような病気になることは、中小企業にとって経営リスクです。

がん検診で早期発見・早期治療を目指す

まとまった期間入院を要する就労世代の病気は、“がん”が多いです。

生活習慣を改善することにより、がんに罹患するリスクを減らすことはできますが、完全に予防できません。そのため、出来るだけ短い入院で治療するためには、早期発見し早期に治療することが重要であり、早期発見するために「がん検診」を受けることが必要となってきます。

自治体・協会けんぽのがん検診を活用しよう

では、どんながん検診を受ければよいのでしょうか。
まずは、“特別”ながん検診でなく、一般的な5大がんの“がん検診”をお勧めします。これらは、がん検診をすることによって死亡率を削減する効果が分かっているものです。


がん検診の種類

自治体が提供しているがん検診や協会けんぽの「生活習慣病予防健診」を利用すると、皆さんの性別・年齢に応じて、必要ながん検診を受けることができます。これらのがん検診は、がん検診を受けるメリットとデメリットを、考えて設計されたものですので、安心して受けることができます。

CHECK
喫煙者の方に注意点があります!

2025年4月 推奨される肺がん検診が一部変わりました。

https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08601.html

50歳以上で、『喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)』が600以上の方は、低線量型CT検査が推奨されることになりました。例えば、1日1箱20本×30年以上(喫煙指数600)吸っている方は、該当します。

これらは、前述の自治体が提供しているがん検診には含まれていない可能性が高いです。 喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の方、追加で低線量型CT検査を受けることを検討されてもよいでしょう。


従業員のがん検診受診状況を把握していますか?

さて、御社の従業員の皆さんは、がん検診を受診されていますか?
従業員のがん検診の受診に経営者が気を配っていらっしゃるのであれば、御社は健康経営に取り組まれているといえます。

内閣府の世論調査で、がん検診を受けた理由/受けない理由が明らかになっています。
受けない理由は、時間的・費用的負担以外にも、「必要性を感じない」「検査内容や苦痛の程度がわからず不安」という方が一定数います。
初めて胃のX線検査を受けたり、子宮がん検診を受けたりするときは不安なもの。受けない方を選択する気持ち、とってもわかります。意外に感じられるかもしれませんが、「(がんと分かると)怖いから」という理由で受けない人も16%います。“がん=死”というイメージが強いためか、知らなければ不安を感じずに済むという方もいらっしゃるようです。

これらの受けない理由を持っていらっしゃる方に対して、「2人に1人はがんになる」「早期発見なら治療できることが多い」という正しい知識を提供したいものです。

職場の声が大きな後押しに

がん検診は任意ですので、受診を強制するものではありませんが、がん検診を受診した理由を見てみると、「職場・学校での健康診断ですすめられたから」28.1% ,「職場の上司・同僚に勧められたから」2.9%、「職場・学校でのがん教育を受けたから」1.9%と、職場の働きかけが大きな要素になっていることに気付きます。

健康診断の案内の際に、がん検診の必要性や経営者ご自身が受けた感想など伝えていただくとよいかもしれません。

まず、経営者が、“がん検診”を受けてください。
そして、従業員の方に“がん検診”を受けることを勧めてください!

筆者紹介
森晃爾(もり こうじ)
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学 教授

2021年より日本産業衛生学会 理事長に就任。

健康・医療新産業協議会、同健康投資ワーキンググループ主査、 健康経営度調査事業基準検討委員会座長等として、特に中小企業の健康経営の推進に貢献。

著書に『マネジメントシステムによる産業保健活動』(労働調査会)など多数。

※2019年より「産学連携プロジェクト」として、大同生命保険㈱・㈱メディヴァとともに中小企業向け健康経営実践モデル構築のため協働参画中。