知って得する!産業医科大Dr.による健康経営コラム

第6回「大きな病気にかかるリスクは下げられる?」

コラム6回目は「大きな病気にかかるリスクは下げられる?」です。
代えがきかない経営者ご自身や重要な社員の方が、突然入院するような病気になることは、中小企業の経営にとって大きなリスクです。

突然長期の入院を余儀なくされる「循環器疾患」

脳卒中や心筋梗塞といった「循環器疾患」と呼ばれる病気は、突然長期の入院を余儀なくされ、時として命に関わることもある病気です。できれば、このような循環器疾患は防ぎたいものです。経営者の方は尚更かもしれません。
年齢を重ねると発症しやすくなる循環器疾患をすべて予防することは、現在の医学では残念ながら出来ませんが、そのリスクを下げることは可能です。

最近の研究で、循環器疾患のリスクがどの程度あるのか、どうやったらリスクが下がるのかについては、詳細に分かってきています。

健診結果で変わる10年後の循環器疾患リスク

例えば55歳・男性、AさんとBさんのケースでみていきます。
なお、55歳男性の今後10年以内に循環器疾患に発症するリスクは、平均値で約2%です。しかし、この値は生活習慣などに大きく影響を受けるため、人によってリスクは全然違うと言えます。

ここでは、健診結果が良好なAさん、そして健診結果が良くないBさんが、今後10年以内に循環器疾患に発症するリスクをみていきましょう。


CHECK
健診結果と循環器疾患リスクの関係

Aさんの場合

170cm 64kg
禁煙 飲酒 習慣なし
血圧 130/80
LDL コレステロール 120mg/dl
HDL コレステロール 60mg/dl
中性脂肪 100mg/dl
空腹時血糖値  85 mg


  • 発症確率は平均に比べて 0.6倍
  • 10年以内に循環器疾患に発症するリスク 0.8%
  • 5年以内に循環器疾患に発症するリスク 0.4%

Bさんの場合

170cm 90kg
喫煙 飲酒 習慣あり
血圧 170/110
LDL コレステロール 180mg/dl
HDL コレステロール 35mg/dl
中性脂肪 300mg/dl
空腹時血糖値  130mg


  • 発症確率は平均に比べて 8.1倍
  • 10年以内に循環器疾患に発症するリスク 18.4%
  • 5年以内に循環器疾患に発症するリスク 8.0%

Aさんは、同年代より総じてリスクが低く、今後10年以内に循環器疾患に発症するリスクは1%以内です。一方でBさんの今後10年以内に循環器疾患に発症するリスクは、なんと20%近くにまで上昇しています。
同じ年齢でも健診結果の良い、生活習慣のよいAさんと比べると、なんと20倍もリスクが高いことに。
もし、Bさんと同様の社員が5人いたら、10年以内に誰か1人は循環器疾患で長期休業する確率が極めて高いといえます。これは大きなリスクと感じられるのではないでしょうか。

健康診断結果を活用したリスク管理のすすめ

現時点でのリスクが分かったところで、次にそのリスクを下げる方法についてみていきましょう。

具体的には、高血圧を改善したら最大69%の改善、脂質異常症を改善したら最大44%の改善、禁煙をしたら最大37%の改善、体重を減らしたら最大11%のリスク改善効果があるとされています。
まずは、Bさんには医療機関を受診し、医師の指導に基づき内服治療を受けたり、生活習慣を見直したりしていただきたいと思います。それによって、リスクをグンと下げることが期待できます。

ぜひ、40~75歳の方は、ご自身の健康診断の結果を用意して、ウェブサイトで計算してみてください。また、従業員のみなさんにもチェックをすることをお勧めしてください。

リスクが平均より高く出てしまった経営者のみなさん。
みなさんの健康はご自身にとって重要であるだけでなく、経営にとっても極めて重要になってきます。リスクを下げる行動をとってみませんか。

参考URL

循環器疾患リスクチェック|国立がん研究センター

https://epi.ncc.go.jp/riskcheck/circulatory/
筆者紹介
森晃爾(もり こうじ)
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学 教授

2021年より日本産業衛生学会 理事長に就任。

健康・医療新産業協議会、同健康投資ワーキンググループ主査、 健康経営度調査事業基準検討委員会座長等として、特に中小企業の健康経営の推進に貢献。

著書に『マネジメントシステムによる産業保健活動』(労働調査会)など多数。

※2019年より「産学連携プロジェクト」として、大同生命保険㈱・㈱メディヴァとともに中小企業向け健康経営実践モデル構築のため協働参画中。