第5回「心の健康問題 早期発見と対応のポイント」


コラム5回目はコラム4回目に引き続き、心の健康の問題を取り上げます。心の健康問題も身体疾患と同様に、早期発見が重要です。そこで、今回は早期発見と対応のポイントをお話します。
まずは従業員の変化に気づくこと
早期発見のポイントは、以前と比べての変化を感じることです。入社直後と比べての変化、2~3ヶ月前と比べての変化などです。
ストレスがかかると、ストレス反応と呼ばれるものが多くの人に生じます。ストレス反応は、体調、行動、心理に出ることが知られています。具体的には次のようなものです。
- 体調:頭が痛い、肩こりがひどくなる、血圧が高くなる、眠れない
- 行動:生活習慣の乱れ、タバコ本数の増加、過食、飲酒量が増えた
- 心理:不安、焦り、イライラ、落ち込み、意欲が落ちる

ストレス反応が出ること自体は珍しいことではありません。軽重の差はあれどストレスを感じたことのない方はおそらくほとんどいらっしゃらないでしょう。
しかし、ストレスが過度になったり持続したりして、職場の仲間が気付くレベルの変化がその人に現れたとき、それは周りの人のフォローが必要なサインと言えます。
気付いてほしい変化の例として、以前と比べて出社する時間がギリギリになった、入社直後に比べて口数が減った、表情が暗くなった、髪の毛がボサボサになった、タバコの本数が増えた、飲酒量が増えた、以前と比べて目が合わなくなった、頭が痛いと薬を飲んでいるなどなどです。
ゆっくりと・穏やかに・丁寧な態度を心がけましょう
これらの変化に気付いたら、声がけをし、本人の現在の気持ちや困っていることについて話を聞くといったフォローが適切です。この場面では、本人が安心して話せる環境が必要になります。
そのため、話す場所や時間、(上司の方の)態度は工夫が必要です。通常の業務指示を出す際のコミュニケーションの態度から離れスイッチを切り替えて、心配をしている支援者との立場から声がけをしていただきたいと思います。
ゆっくりと・穏やかに・丁寧な態度を心がけましょう。

「大丈夫か?」という声がけのみでは、「はい。大丈夫です」という短いコミュニケーションで終わってしまいがちです。
そのため「大丈夫です」との返答後も、具体的に「以前と比べて、出社がギリギリになっているけど、夜、しっかり眠れているか?」、「元気がなさそうに見えたけれど、困っていることや気になっていることがあるのか?」と、穏やかな口調でゆっくり続けて聞いていただければと思います。
すぐに返答が返って来なかった場合、「適切な答えを探してくれているのだ」と沈黙を共有し、「困っていたらいつでも言ってほしい」と伝えるとよいでしょう。
やり取りの中で、眠れているか確認してほしいポイントです。“眠れていない”状態が2週間以上続いていたら、病院(心療内科・精神科)に行くように伝えてください。
病院受診を勧める際には「眠れないのが続いている〇〇さんのことが心配だ。病院に行ったほうがよいと思うんだ。休みをとって大丈夫だから・・」というような伝え方をします。
本人が病院受診に抵抗を示すようであれば、「〇〇さんのことが心配だから、相談サービスがあるから、相談してみないか?」と伝え、大同生命で提供する産業保健師への相談サービス(KSP健康相談)のような外部サービスを案内する方法もあります。
仕事上の困りごとは上司の方で解決できることも多いと思いますが、私生活の困りごとの解決は難しい場合もあるでしょう。こうした困りごとの解決支援に前述のような外部サービスを活用するのも一つです。


「うつ状態の診断書で休んでいる社員がいる」「遅刻や欠勤しがちな社員が気になっている」「昼間居眠りするなど、眠れてなさそうな社員がいる」「飲酒でトラブルになったことがある社員の酒量が、さらに増えているようだ」など従業員の変化に対して、保健師が必要な事柄をアドバイスします!
できていることを認めることが重要
最後に、メンタルヘルス不調の若手社員の話を聞いた私自身の経験から、経営者・上司の皆さんに1つだけお願いしたいことがあります。
「できていることを承認する」です。
仕事を覚えていないうちは、「仕事したらミスをしてしまい、ミスを指摘されて、時には叱られる」という繰り返しです。
皆さんは、最近叱られたことがありますか?
私は最近叱られることがありません。そのため、叱られること、叱られる日々が続くことが、どんなことか忘れてしまいがちだと感じています。
自信がない仕事をする日々、毎日叱られるかもしれない日々は、辛抱がいることです。毎日、自分を否定されるように感じてしまう場面もあるでしょう。そんなとき、この仕事向いていないのかな・・と自信がなくなってしまったり、他の仕事ならもっと楽に覚えられるかな・・と感じたりするのも無理はありません。
そこで、「〇〇の仕事はできるようになっているな」「〇〇まで任せられるな」など、ぜひ口に出して、仕事ぶりを認めることが重要です。
その承認が、若い社員の仕事を続ける土台になっていくのではと思います。

医学博士。専門は産業医学と有病者の就労支援。
平成13年産業医科大学医学部卒業、企業の専属産業医の経験を経て、平成20年より産業医科大学 令和4年1月より現職。
※2019年より「産学連携プロジェクト」として、大同生命保険㈱・㈱メディヴァとともに中小企業向け健康経営実践モデル構築のため協働参画中。