第3回「従業員の健診結果を見ることは許される?」


コラム3回目は「従業員の健診結果を見ることは許される?」です。
経営者や人事から尋ねられたことがある質問です。
個人情報なので健康診断の結果を見てはいけないと心配される方は多くいらっしゃるようです。
従業員の健診結果を見ることは許される?
健康診断の結果には、実施した検査の結果と、判定の情報に加えて、現在通院している病気や以前かかったことのある病気も記載されています。これらは、間違いなく個人情報です。
さて、従業員の健診結果を見ることは許されるのでしょうか?
はじめに、健康診断の実施は1年以内ごとに1回(有害業務は半年に1回の場合あり)、労働安全衛生法令で定められた企業の義務です。
健康診断は企業に実施するだけでなく、結果を受けての措置(医師の意見聴取、健康状態に合わせた働き方の検討)が義務付けられています【労働安全衛生法第66条の四、五】。その義務を果たすために、閲覧すべきものです。見ることは許される?ではなく、見なければいけないものといえます。
健康診断結果を見てから最初にすることは

健康診断を見てから何をすべきでしょうか?
最初に、病院に行くよう指導する必要がある人を洗い出すとよいでしょう。対象となる従業員がいる場合には、下記3点を伝えてください。
①病院に行くこと
②病院の医師にどんな仕事をしているか説明すること
③同じ働き方を続けてよいか医師に聞いてくること
次に、昨年病院に行くよう指導をした人について検査結果が良くなっているかを確認したり、会社の健康状態の評価として社員の傾向を確認したりすることも重要です。
ただし、健診結果は機微な個人情報であることも事実です。人によっては健康診断の結果は知られたくない情報もあるかもしれません。1人1人の体重の値を見て、覚える経営者はまずいないと思いますが、私も経営者に体重を知られることを想像するとよい気持ちはしません。
「γ―GTPがまた上がってしまった!やっぱりお酒増えたせいかな・・」と従業員自身が話すことは問題ありません。しかし、経営者や上司の方が、同僚の方がいる前で「○○君、中性脂肪また高かったなー。また太ったせいじゃないか?」、などと声を掛けるのはどうでしょうか?
健診結果についてその情報が必要ない人(この場合は同僚)に情報を開示することは、不適切といえるでしょう。
また、健診結果に医学の専門用語が書かれていることがあります。ホームページで検索して早合点したりすることがないように、分からないことがあれば、本人や本人が通院している医師に尋ねて、企業としてすべきことは何か確認しましょう。
冒頭の質問への答えとしては、「健診結果は健康管理を担当する人は見てよい。
ただ健診結果を見ることができる人を経営者と健康管理の担当者に限定するなど、利用方法をあらかじめ取り決めておくと良い」ということが言えるでしょう。
労働安全衛生法 第六十六条の四 事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
第六十六条の五 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成四年法律第九十号)第七条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。


再検査や精密検査が必要と判定された人のうち、早急に、病院に行く必要がある人をピックアップします。その後KSP「産業保健支援サービス」を使って、同じ働き方を続けてよいか等、医師に相談することができます。

2021年より日本産業衛生学会 理事長に就任。
健康・医療新産業協議会、同健康投資ワーキンググループ主査、 健康経営度調査事業基準検討委員会座長等として、特に中小企業の健康経営の推進に貢献。
著書に『マネジメントシステムによる産業保健活動』(労働調査会)など多数。
※2019年より「産学連携プロジェクト」として、大同生命保険㈱・㈱メディヴァとともに中小企業向け健康経営実践モデル構築のため協働参画中。